【A1】 三 国 山  →  芽 登 峠  

踏査報告書

踏査地図

【踏査日】 2007年5月3日~5月6日
【実施者】リーダ:鈴木和夫 サブリーダ:海川敏雄
         鈴木貞信 片岡次雄
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 中央分水嶺の踏査が終了したのが06年4月30日(道南の白神岬)、あの日から1年を経て「オホーツク分水嶺踏査」がまた新たな挑戦の気持ちと共に始まった。今回は〈三国山~道道88峠〉間の24.22kmを山中2泊3日で踏査しようというもので、分水嶺の踏査としては道南しか経験のない片岡さんと僕にとっては、大いに興味をそそられたところでもあった。スキーの不得手な僕に合わせてくれ、全員がワカンかスノーシューで歩こうということになって、鈴木さんご兄弟はスノーシューで、片岡・海川はワカンを使用することになった。

 5月3日 片岡・海川の2名で7:30に函館を発って道道88峠に着いた時には、予定時刻を遙かに超えて17:00を回っていた。鈴木さん達はすでに到着していた。挨拶もそこそこに、駐車場の雪の融けたコンクリート上にテントを設営し、早速持ち寄った物を出し合ってささやかながら酒宴が始まった。明日はここに車1台を残し三国峠に移動すること、起床は4時、朝食は行動中にとること・・・等について確認する。互いに疲れているので酒宴を早めに切り上げ、19:00過ぎにシュラフに入る。テントには貞信さんと片岡さんが、和夫さんと僕はそれぞれ愛車の中にもぐり込んだ。
車の窓ガラスを通して星の光が車内に入り込んでくる。明日は晴天間違いなしだ、いかなる前途が待ち構えているのだろう・・・、そんなことを思いながら間もなく眠りについた。
5月4日 4:00起床、5:00過ぎに三国峠に向けて出発する。途中、大雪防災ステーションでトイレを済ませ、6:25に三国トンネルの北駐車場に着いた。天気は上々、6:35にそれぞれ重いザックを背負って三国トンネルの脇から三国山を目指して入山した。ついに始まったのだ。暫く全装備で歩いていなかったので、エスケープルートのないこのルートに多少の不安を抱くが、ここまで来たらあれこれ言っても始まらない、覚悟を決めてつぼ足で歩き出す。4月30日に鈴木さん達によって三国山までの下見が行われていて、そのため上に向かって点々と踏み跡がついている。奥様と4人で登られた由、そのトレースを追うようにして進む。やがてそのトレースとも別れ、稜線に出る急斜面で各々スノーシューとワカンを装着した。まだ本調子ではない、喘ぎあえぎ登る。8:30、稜線上に出た。
 突然視界が開け、白銀に輝く山々が圧倒的な迫力で目に飛び込んでくる。9:10、C1530を経て、北海道大分水界のピーク・三国山(◬1541.4)に着いた。ここからの眺めはまさに圧巻である。鈴木さん達の説明によると、南西に見えるのがニペソツで、西に〈忠別~白雲・旭岳・黒岳〉等の大雪の中心部が、そして北西にニセイカウシュッペと天塩岳、北に武利岳と武華山、南東にクマネシリ・・・等が、陽光を浴びて青空の中に燦然と照り輝いている。何とも神々しい、豪華な展望である。その昔アイヌの人達が、そこに神々の来往を信じたというのも、むべなるかな・・・という思いがする。
三国山を下り、11:20に三町界の手前で昼食をとった。11:55、三町界(旧留辺蘂・上士幌・置戸の三町界)に着く。ここから90度右折して12:10、◬1390.3峰へ。エゾマツを中心とした針葉樹林帯の中を歩くようになると雪面を踏み抜くことが多くなり、取り分け急斜面の上り下りには神経を使う。鬱蒼と生い茂った木の下には枯れ枝や倒木が多く、その上にそれらを隠すようにして雪が堆積していて、そのため踏み抜いてひっくり返るまで気づかないのだ。注意していてもはまってしまうから始末が悪い。深くはまってしまうと独力では脱出不可能だ。ドジな僕は、何度も踏み抜いては片岡さんに助けられた。14:40、今日の幕営予定地である勝北峠に着いた。15:35、早速テントの設営に取りかかる。<BR>
リーダーの指示で、鋸とスコップで雪のブロックを切り出し、それを三方に積んで風壁を作り、その中の雪を踏み固めて平らにし、その上にテントを立てた。設営後、安着祝いにビールで乾杯した。風はないが曇ってきて、天候の悪化が懸念される。必要な物だけテントの中に入れ、ザックやその他の物を外に出してツェルトの中に入れた。水を作るための雪ブロックを入口付近に置き、全員テントに入ってほっと一息、16:00、飲みながら夕食の準備にとりかかる。一日の中で最も楽しい、心休まる一時である。雪を溶かすガスストーブの心地よいのどかな音を聞きながら、日中の苦労を忘れて飲み、食い、語り・・・、豊かな満ち足りた空間の中に身を置く己を意識する・・・。山はやはり素晴らしいと思う。20:00就寝。
 5月5日 2:00起床。夜中に目を覚ました時に、パラパラとテントに当たる雨の音を聞いたように感じたのだったが、朝起きてみて雨が降っていることを知った。コーヒーを沸かして飲み、外に出て急いで雨具を着けテントを撤収する。4:30出発。雨はそれほど強くはないが、少量ながら降り続き、時折稲光りがして雷鳴が轟く生憎の天候となった。腐れ雪は昨日よりもさらにその度を増した感じで、ズブズブと沈み込み、時間ばかりかかって容易に進まない。スノーシューを着けた鈴木さん兄弟が交互に先頭に立ち、その跡を踏むようにしてワカンを履いた片岡・海川がその後を追うのだが、ラストを歩く僕としても少しも気が抜けない。雪の下のことは知る由もないから、誤って倒木の間やその他の空洞化した隙間に足を踏み入れては痛い目に遇う。3時間半かかっても2.5km程度しか進まないから始末が悪い。時速約0.7km前後の効率の悪さである。
 こちらに来て気づいた点は、道南の山とは違って圧倒的に針葉樹が多いことで、あの木肌の美しいブナが全く見られない点だ。(勿論、道南にも針葉樹は数多く見られるが、手入れがなされていて幹が太く、木々の間隔にも余裕があって、このようなこせついた陰惨な感じとは全く違う。それに大木のブナやダケカンバが多いから、山は明るく快活で、豊かな生命感に満ちている。)果てしなく続く暗々とした針葉樹林帯の中を、目を突かれ、顔をなでられ、頭をこづかれながら、黙々と牛歩の歩みが続く。
 P1256の下りで和夫さんが滑落?・・・した。片岡さんのアッという声に前を見ると、先頭を歩いていた和夫さんが腐った雪に足を取られた様子で、急斜面を滑り落ち、一回転したかと思うと、見事な受け身とストッピングのテクニックでピタリと動きを止めた。ストッピングの技術は勿論だが、高校時代に鍛えたという柔道の技もかなりのものだ・・・と感じ入った。和夫さんといえば、彼が転ぶ時は実に豪快である。脚に力があるから半端な歩き方はしない。その足のどちらかが雪の空洞化した中へストンと落ち込んだりした場合に、加速も加わって猛烈な勢いでもの凄い音と共に前方に投げ出される。腰痛を心配して「大丈夫ですか」と聞くと、「大丈夫です」と事も無げに言う。一体どうなっているのだろう。兄の貞信さんも大変な体力の持ち主だ。こちらがかなりへばっているのに、涼しい顔でGPSに取り組んでいる。やはりこの兄弟はただ者ではない。
 雨が止んで明るくなってきた。9:05、下勝北山(◬1352)に着く。昨日目を奪われた、あの白銀に輝く大雪山系の山々は後方に去って、クマネシリとそれに続く高根ヶ原に似た平坦な尾根が絶えず視界に入ってくる。今日は一日中クマネシリを見て過ごす。下勝北山の下で昼食をとり、11:20に上士幌・足寄・置戸の三町界(P1235)に着いた。 P1156の登りにさしかかる頃から疲労が一段と加わって、転ぶことが多くなる。数えたことはないが、昨日から全員10回以上は落ち込むか転ぶかしただろう。予定した幕営地は1km以上も先である。この悪コンディションの中でさらに1km以上も歩くのは厳し過ぎる。リーダーの判断でP1078の手前で幕営することにし、テン場を探した。運良く中腹に造られた林道を見つけ、16:00にテントを張った。今回はスコップで雪をならしただけで、雪ブロックによる風壁は作らない。残っている酒や食物を出しあって、早めに夕食をとり、19:30過ぎにはシュラフに入った。明日はゴールするのだ。風呂にでものんびりと浸かって冷えたビールが飲みたい・・・、そんな思いを抱きながら、疲労も手伝って直ぐに寝入ってしまった。

 5月6日 ゴオーッという山鳴りのような音で目を覚ました。時計を見るとまだ3時である。このような音は10分おきくらいの間隔で起きているようだ。どこかで上昇気流が起きていて、そこへ山間で冷やされた空気が流れ込んでいるのだろうか?・・・と、うつらうつらしながら眠りを貪りつつ聞いている。4:00起床。5:30出発。
 昨日とは打って変わって快晴で、絶好の山行日和である。気分も一新し、順調に進む。6:20、昨日テン場に予定していたP1137手前のコルに着く。1137上から眺めると、眼下に、今日これから辿る経路が一望の下に見渡される。道道88号とおぼしき道路も見える。やった! あれがゴール地点だ。思わず笑みがこぼれ、肢体に力が湧いてくるのを感じる。10:00、P1006の手前で昼食。昨日までの暗々とした針葉樹林帯からダケカンバを中心とした広葉樹林帯に変わり、山も低くなって1000m以下の低山が次々と続く。時々雪を踏み抜いては痛い目にあうが、昨日とは気分の上で雲泥の差がある。・892手前の急斜面の下りは尻滑りで下りた。P990からP955一帯にかけては坦々とした平地で、明るいダケカンバの林になっている。和夫さんのケイタイに、88峠で中村喜吉さん達が出迎えてくれる・・・という連絡が入る。嬉しい! ついにゴールを迎えるのだ。13:05、最後のピーク(C820)を上り切ったところで、今まで先頭を歩いていた鈴木さん兄弟が足を止め、「どうぞ、お先に・・・」と言う。出迎えてくれる中村さん達に、我々函館勢の颯爽とした姿?を見せよう・・・という配慮なのだ。何とも粋な計らいである。二人のご厚意に感謝しながら、片岡さんを先頭にして、かくして全員元気に88峠にゴールしたのだった。到着時刻は13時57分、駆けつけた中村・漆崎隆・漆崎裕・鶴岡・吉澤さん達によって握手とビールの祝福を受け、今回の踏査を終えた。
(報告) 海川敏雄 (写真) 鈴木和夫 

① 三国山頂上

② 三国山から石狩岳

③ 三国山からクマネシリ

④ ナイフリッジ

⑤ 三町分岐からの分水嶺

⑥ 勝北峠

⑦ 勝北峠テン場

⑧ 下勝北山