「ニセコルール」を定着させた登山家

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■■■ニセコ雪崩調査所代表、新谷(しんや)暁生(あきお)さん(78)=ニセコ町■■■

2025.11.16 第54回北海道登山研究集会の講演=北海道道勤労者山岳連盟主催、札幌市教育文化会館=を聞いて

 ニセコアンヌプリ(1308㍍)周辺では1980年~90年代、雪崩死亡事故が続出した。空前のスキーブームを背景に特に山麓の4つのスキー場が競って、リフトを標高1150~1180㍍まで延長し、管理が及びにくい山頂近くからの滑降によって、コース外のパウダースノーを滑ることが容易になったことが背景にある。そんな中、74年から山麓でスキーロッジを経営する一方、海外登山でも活躍した登山家であり、知床半島でのシーカヤックガイドでもある新谷さんが94年、各スキー場に対して雪崩発生のリスクを伝える「ニセコ雪崩情報」を発信し始める。

 新谷さんの孤軍奮闘の情報提供と注意喚起によって雪崩事故は激減、行政や山麓の5つのスキー場も協力する形で2001年、新谷さんが代表を務めるニセコ雪崩調査所が積雪期に毎朝、発信する「ニセコ雪崩情報」をもとに、各スキー場から場外に出て安全に滑るための公式規則であるニセコルールがスタートした。スキーやスノーボーダーのスキー場からの管理区域外滑降をめぐっては「スキー場側が場外に出て危険なタイミング、入ってはならない場所を示し、スキー場利用客がそれを守る」というこだわりが、この情報発信とローカルルールの根幹となっており、責任回避をにじませ、コース外滑降を全面禁止とする多くの他スキー場とニセコが異なる所以でもある。

 当日朝の降雪、積雪、風向、気象情報などをもとにリスク判定をし、各スキー場に設置したゲートの開閉を決めて、①場外には必ずゲートから出る②ロープをくぐらない③ゲートが閉じている時は外に出ない④立ち入り禁止区域には絶対に入らない~等というルールだ。

 新谷さんはこの日の講演で、「ニセコルールは山岳のルールでなく、スキー場を利用する人たちのルール。利用者の滑走の自由を尊重しつつ、その安全をいかに守るかという目的のために行われている」「雪崩講習会では表層雪崩は日照や気温変化による弱層が起こすということを教えるが、それだけでは説明がつかない。ニセコで起きたこれまでの雪崩事故を考えると、雪崩の多くは吹雪の最中に起きる。特に低気圧通過に伴う降雪や冬型に伴う急激な積雪増は要注意。風雪時にピットチェックなどもできず、雪崩のリスクを減らすには行動前の気象判断が大きい」などとして、雪崩情報発信の意義を説いた。

 現在、ニセコアンヌプリの斜面を使った5つのスキー場のうち3つが外国資本であり、1日券高騰もあってこの冬、日本人のスキー場利用はますます少なくなることが予想される。JAPOW目当ての欧米系外国人に加え、特にアジア系滑降客の急増が予想される中、日本語と英語によるニセコ雪崩情報、ニセコルールをニセコ訪問者に浸透させていくことは容易なことではない。新谷さんの年齢も考えると、官民挙げて地域ぐるみのさらなるフォローに期待したい。

「雪崩情報」発信作業の光景

ニセコルール 新谷さんが個人で始めた「雪崩情報」の発信を、各スキー場や行政機関がその効果を認める形で、2001年に公式のローカルルールとして始まり、今日に至っている。新谷さんが12月~3月の毎朝、雪上車でモイワ山山頂近くまで上がって、降雪と積雪、風向・風速状況を確認、気象データを加味して、各スキー場のスキーパトロールと情報交換した上で、管理区域外を出ることができる11のゲートごとに開閉を決めて、ネットと掲示などで発信する。現在は新谷さんが発信する「雪崩情報」を3人が交代で英語にも翻訳されている。

ニセコアンヌプリの東~南斜面には、ニセコHANAZONOリゾート、ニセコ東急グラン・ヒラフ、ニセコビレッジスキーリゾート、ニセコアンププリ国際スキー場、ニセコモイワスキーリゾートの5つのスキー場があるが、各スキー場も現在、ニセコルールとニセコ雪崩情報をもとにした運営を行っており、欠かせないルールと情報になっている。