日本雪氷学会北海道支部「雪氷災害調査チーム」が調査速報発表=3月8日
3月5日に十勝岳連峰・上富良野岳(1893㍍)の三峰山沢で、外国人15人パーティーのうちのスノーボーダー1人が完全埋没し、生存状態で掘り起こされた表層雪崩事故に関して、日本雪氷学会北海道支部「雪氷災害調査チーム」(「三段山クラブ」代表・大西人史さん、佐々木翔平さん、坪島拓也さん)の現地調査結果が8日公表された。画像データは全て、日本雪氷学会北海道支部のホームページから転載した。
その速報データやメディア報道を総合すると、雪崩は3月5日午前10時40分ごろ、上富良野岳に突き上げる三峰山沢左股、牡鹿の滝脇の右岸・左岸斜面が雪崩落ち、台湾からの登山パーティー15人のうち、44歳のスノーボーダー男性が標高1300㍍地点で完全埋没して、同行者らによる雪崩トランシーバーによる捜索救助活動によって、埋没から約90分後に掘り起こされ、道警ヘリで病院に搬送されて一命を取り留めているが、当事者の生死もさることながら、規模の大きさを考えると大量遭難の可能性もはらんでいたわけであり、かなりきわどい雪崩事故だったことがうかがえる。

当初の報道では、掘り起こされた男性は「意識不明」「意識混濁」「意識障害」などとされた。テレビのインタビューでは、ガイドらしきアジア系リーダーは「雪崩は幅約200㍍、長さ約300㍍の規模だった」と話しており、テレビ映像を見る限りメンバーの全員か大半がスノーボーダーで、ガイドツアーと見受けられる。
「災害調査チーム」の速報によると、「牡鹿の滝」の右岸と左岸の2地点から面発生乾雪表層雪崩(ウィンドスラブ雪崩)が発生。雪崩①は「牡鹿の滝」の右岸(トリガー地点:cont.1400㍍の南西斜面、走路幅:約200㍍、全長約250㍍)、雪崩②は「牡鹿の滝」左岸(トリガー地点:cont.1470㍍の北西斜面、走路幅:約200㍍、全長:約400㍍)。①も②も雪崩サイズは「2」に該当する人的被害を出すには十分すぎる規模であり、この2つの雪崩は「牡鹿の滝」下方で合わさって三峰山沢を流下し、男性は2つの雪崩の合流した標高1300㍍地点で深さ4.1㍍の深さで埋没していた。
調査チームの聞き取りでは、男性はまず右岸側の①の雪崩で浅く埋没した後、直後に流下した左岸側の②の雪崩で深い埋没したとみられ、雪崩トランシーバーを使った捜索で埋没位置を探知、掘りこされたという。現場付近で実施したCTテスト(弱層テスト)によると、融解凍結クラスト層上の密度の高い風成雪が破断したとみられ、深さ24㌢のこしもざらめ雪、29㌢のこしまり雪などの弱層が確認、3か所のCTテストのうち2か所で、破断の特徴は最も不安定なSP(Sudden planar)を示しており、破断時の伝搬性の高さ、リスクの大きさが顕著にうかがえる。

今回の雪崩事故で驚いた点がいくつかある。
- アジアの人たちのパーティーが、日本人や欧米人もあまり立ち入らないであろうマニアックな三峰山沢にまで、15人もの大人数でパーティーを組んで滑っていること。人の入らないノートラックな雪斜面を求めたことが推測され、アジア近隣国での滑降山行=バックカントリーの人気過熱ぶりの証左か。そもそも日本列島より南国の台湾人パーティーがこの人数でわざわざスキー場がないカミフエリアの山にスノーボードに来ていることに驚きを隠せない。
- 難易度が高く、明らかに雪崩リスクがあるルート上での事故であり、この斜面を滑るリスクに無知だったのか、それともリスク管理をして万難を排して狙ってのルートだったのか。少人数、プロ向きのルートであり、ガイドツアーであれば残雪期ならばともかく、この時期の滑降ルートとしては無理があったのでないか。
- 沢ボトムを挟んで離れた2つの対岸地点から別の雪崩がほぼ同時に起きたこと。人的被害を伴った表層雪崩事故ではこれまで、2020年2月1日に道北の中頓別町の敏音知岳(703㍍)の雪崩(3人パーティーの1人が死亡)でも、尾根をまたいで隣接斜面からほぼ同時に雪崩が発生しており、何らかの衝撃が周辺に伝播しやすい条件が揃えば、距離が離れていても、不安定な斜面では一つのトリガーや一か所の自然発生雪崩が、複数個所の雪崩をほぼ同時に引き起こし得ることが改めて浮き彫りになった。
- スノーボードの男性は離れた場所で発生した2つの雪崩によってダブルで埋没して、絶望的な深い全身埋没となった。通常では生存救出が難しい深さ4.1㍍の埋没から90分もかかりながら生存救出に繋げたスキルと粘り強い救出対応、生命力にも感心したが、偶然的なエアポケットゆえの運の良さというべきか。
- ※正確な統計や記録がないので推測も入るが、北海道の冬山では、パウダースノーを目指して、2000年ごろからニセコに大挙してやってきたオーストラリア人を端緒に、パウダー(japow)を求めた外国人の来道はSNSを通じて、2010年代に入ると欧米各国(北米2国、欧州アルプス周辺国、北欧3国等)にも広がり、長期滞在者のニセコー旭岳の往来➡ニセコエリア(ルスツを含めて)/旭岳/カミフエリア(十勝岳連峰)の3つのメインエリアへの分散化が進んできた経緯がある。が、特にここ数年、この3つのエリアでは、中国・韓国・台湾などのアジアの国からのスキー場のゴンドラ・リフトを使ったサイドカントリーにとどまらず、滑降山行=バックカントリーの入山者が急増している印象を受ける。平昌冬季五輪(2018年)、北京冬季五輪(2022年)の極東での2つの冬季五輪開催も追い風になったのかもしれない。道警が発表する遭難事案発表でもアジアの人たちの冬山遭難は急増しているが、スキー場主体の遭難や事故に留まらない事案が目立つようになっている。冬場の旭岳ロープウェーの乗客を見ていても、数年前と比べても今冬は明らかにアジア系の乗客が増えており、内実は分からないが、見た目では身に付けた装備やウェアも厳冬期登山や雪崩対策を意識した人が散見、管理区域外に山行に出るパーティー、単独行者が増えていると判断される。
- ■今回の現地調査、調査取りまとめにあたった三段山クラブの大西人史代表らが2002年に滑った時の三峰山沢の様子(動画)を、大西さんが参考情報としてフェイスブックでアップされており、大西さんの許可を得て、以下のボタンを押せば飛ぶようにしました。

