北海道で登山をする者にとって、ヒグマ対策は欠かせず、身を守る最後の手段としてクマ撃退スプレー(唐辛子成分カプサイシンを使った噴射式用具)への関心は年々高まり、販売実績も急増している。8月に知床半島・羅臼岳の登山コース上で起きたヒグマによる登山者襲撃事故では、襲撃を受けた登山者は撃退スプレー不携帯の可能性が高く(携帯の有無がはっきりせず、現場周辺の捜索でも未発見)、後方にいた同行者も携帯していたスプレーもヒグマ対策用のものでなく、実際には応戦に使われなかった(知床ヒグマ対策連絡会議の資料から)とされる。

そんな中、現在、国内で販売されているクマ用とされる「スプレー」6種の比較実証実験が、「北海道フライフィッシングキャンプ」(10月31日発売、ふらい人書房刊)巻末の「釣り人のヒグマ対策決定版」に関連して、道東地方(弟子屈町)でネイチャーロッジを経営している橘利器氏によるユーチューブ動画がアップされた。橘さんの了解を得た上でアップさせていただいた。
対象は、①Counter Assoult、②Frontiersman、③UDAP熊撃退スプレー、④熊一目散、⑤POLICE MAGNUM、⑥Lilima BEARの6製品。
①は、グリズリーの本場・米国モンタナ州での研究・開発で生まれ40年間リードしてきた定番製品、②と③はそれに続く後続製品で、①~③は、米国環境保護庁EPA(U.S.Enviromental Protection Agency)が効果と安全性を認証した製品で、④は唯一の国産品、⑤は本州のツキノワグマ用として販売されているが、メーカーへの照会によると「クマ用製品ではない」とされ、現実的には対人用。①~⑤はいずれもスプレーによりカプサイシン成分のガスの壁を作るタイプで、⑥は「水鉄砲」式で、それぞれの効果を及ぼす距離、噴射時間を計測、実際の映像を見ることができる。
それぞれの製品をホルスターから抜き、噴射するまでの時間経過の実験では、製品によって噴射までの時間差が大きいことが紹介され、安全性と速射性のどちらを優先すべきかということを考えさせられる。登山時の遭遇のように見通しがきかないフィールドでは、出会いがしらの遭遇に備えて速射性を重視すべきなのかもしれない。
製品の中心となっているメーカー側のクマ撃退スプレーの基本的な考え方「クマとの間にガスの壁を作る」ことの意義、下向きに噴射するとガスの効果が持続することなども紹介されている。EPAが認証した米国製3社製品の優位性を感じさせる。国産品の問題点、「クマ用」として販売されていながら現実的に無理がある製品にも言及されている。
またクマとの遭遇を未然に防ぐため、クマ鈴、ホイッスル(笛)、人の声の到達距離実験の映像も合わせて紹介され、到達距離ではホイッスル>人の声>クマ鈴の順に優位性があることも実験結果として盛り込まれていて、興味深い。

